体験するアイドルから音楽とダンスについて7 -人力初音ミク。-


体験するアイドルから音楽とダンスについて
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もう出し尽くしたと思ってたんだけど、もう少しだけ今のアイドルってこう言う風になってるのかなってはなしをば。ではホラーは唐突に始まります
前山田健一の変名ヒャダインが、何故アニメファンから好かれないのかは、彼自身の言う「良い楽器」を本人が持っていないからじゃないか。これはアニメファンという「場」に特徴的ですが、良い楽器の音は聞きたいが、弾いてる奴の顔なんか見たくない、作家性ではなく身体性を求めているという欲望の表れで(声優の多くは作家が作詞作曲をする)。例えるなら声優はファンタジーだが、前山田の声は実写だということだと思う。



そして本人もそれを知ってか知らずか、自分の声を加工するヒャダル子といったペルソナを持っている。これは神聖かまってちゃんが声を変える(ファンタジー/二次元に近づく)のと同じで、自らを初音ミク化/人力初音ミクにするということ(逆にアイドルの側からかまってちゃんをやるとBiSに代表されるDIYアイドルになる)。



人力初音ミクといえば、渋谷慶一郎口ロロが声優を呼んできてやっている作品、そしてなんといっても相対性理論が思い出される。また前山田健一は自らと同時に、ももいろクローバー私立恵比寿中学といったアイドルや、麻生夏子ゆいかおりといった女優/声優をもシーケンスしている。彼は女の子の声を加工しない事で、自分の声を加工しているわけですね。



もし彼女たちを楽器に見立てた前山田健一NARASAKIのバンドだとしたら、それは彼女たちを通して実写の作家を見ていることになる。我々はアイドルが好きなのか作家が好きなのか。個人的にはももいろクローバーを見ている時に、作家を消費していると感じたことはないが、この事を常に突きつけられ続けている事は確かで(オトナが仕掛けた罠をくぐり抜けっていいますしねえ)。逆にこの緊張感が無かったら面白く無いのかもしれない。しかし、自分がももクロの新曲を聞く度に毎回感じる「またももクロの勝ちか」という思いとも重なるのだが(彼女たちが宮崎駿なら脅かしてみろよって言うでしょうねえ)、ここにおいて何が勝ち負けなのかというと。音楽で言えば楽器という特性の持つ限界のようなもの。


90年代に音楽の進化がそのまま機材の進化に置き換え可能になった時、そのアンサーとしてROVOなどの隆盛によって人力トランスというワードが流行り、ポストロックやエレクトロニカを経由しその後のマスロックを準備したという文脈があり(雑ですが、機材はアイドルの身体性。人力トランスは人力初音ミク)。
つまり何が言いたいのかというと、アイドルというのは、プロデューサーがアイドルの身体性を引き出しているわけではなく、同時にプロデュース側もアイドルに作家性を引き出されていて。このバランスのせめぎ合いで少しだけアイドルが勝つのが(コドモがオトナに勝つ)、アイドルの魅力なのではないかということなのでーす。



そのどちらかが突出してしまうと途端に白けてしまう。例えば、しょこたん前後に「〇〇アイドル略して○ドルです」という慣用句で界隈は敷き詰められていたけれど、そこには自己プロデュースの荒野しか見えなかったですよ。たまにアイドルが自分で歌詞を書く時に一斉にガッカリしてしまうのもその為。だからといって、みんながみんな秋元康バリのネームバリューで仕掛けを引っ張ってこれるわけでもなく、結果アイドル冬の時代に比較的安価なライヴ(地下)アイドルがすし詰め状態になるのも頷ける。この文脈を逆に読み解けばゴールデンボンバーの説明にもなる。アイドルの身体性を人力MMD的にシーケンスし、曲は書くけど、もっとうまい人に弾いてもらう訳ですから。



今は楽器で例えたから、音楽の話をしているように見えますが、これはプロデュース全般の話で。楽器じゃなければ、例えば早すぎて乗りこなせない乗り物。作家に限らずプロデュースする立場の人間たちは、自分は乗りこなせないが理論的には可能な筈の夢の乗り物を作っている。だからこれはある種勝負。もしかすると女の子を殺してしまうかもしれない勝負。音楽の話を切り離せばAKB48のプロデュースもこのアナロジーで説明可能。なぜ総選挙にドキドキしてしまうのかといえば、乗りこなせなかったら死んでしまうことが分かるから。総選挙において、何位以内に入らなかったら何票以下だったら、自分をアイドル足らしめるインフラの底が抜けている事を自覚することであり、やはりそれはアイドルという自意識の死なのです。しかし身体が擦り切れながらも最終的にプロデュースを超えるから震えるわけですよ。


この様に、私自身がアイドルをアイドルたらしめるアーキテクチャに語りを引き出されてしまう事自体が、私が負けたことを象徴しているわけですね