格闘技批評が成立する最後の現在地


当然といえば当然なのだけれど、
格闘技は安心して子供と見る事が出来、
また憧れられる"スポーツ選手"という「レッテル」が、
さも当然のように、貼られようとしているみたいだ。
こんな格闘技にとても良く似た
さらに先を歩いているジャンルがある。
「お笑い」だ。
何処がどのように似ているかについては、
これを読めば、何となく分かってもらえると思うから
あえて説明しないけど、一つ問題定義がある。
このままだと、格闘技もM-1(お笑いの方)のように、
面白さよりも、手数や鮮やかさを競う品評会になり、
本来の「強いオトコがどつき合いで強さを証明する」
といった原始的な欲求を満たすジャンル
ではなくなるという問題。


例えば、レスリングベースの選手によくある戦術なのだが
倒して固めて判定で勝利する人間が、
仮初の強さの称号も得たとしても
それはMMA(Mixed Martial Arts)と呼ばれる前に呼ばれていた
バーリトゥード(何でもあり)的な強さだと言えるだろうか?
いや、もっと感情的なもので
私たちはそれを見て、納得出来るだろうか?
私は実際にそういった試合を見たところで
虚しいだけで"ルールに一番適応した人間"としか思えなかった。


それは過去、一部で停滞していた
落語や空手の型のようなものであって、
そのような形で残ったとして、それ面白い?
あえて、嫌らしい言い方をしよう。
もし、バーリトゥードMMAに駆逐されるのなら
MMAは、オリンピックを目指すのだろうが、
バーリトゥードは、地下に潜る!
より醜い部分は、より見にくい場所で行われるのだ。
それでも仕方がない。
が、目の前から消せばそれでいいのか?
世界とは、その程度の自分本位で傲慢な世界なのか?
公然と行われることで保たれた節度は
地下に潜ればあっという間に、殺し合いの場になる。
それでも仕方が無いのか?
そのような人間を管理し、仕事を与え
人前で行うことで、ルールを設け
安全に暴力衝動を、飼い慣らしてきたんじゃないのか。
そういった、リミッターが壊れた場所が
世の中に出来上がる事が
全然怖くないのだとしたら、
想像力の無い、相当なボンクラだと言うしか無い。


話は変わるが、格闘技はこのように今岐路に立っている
と、私は個人的に思うのだが、
その割に、批評の俎上に上がることが非常に少ない。
その事が
最近熱が冷めてきていると思っていた筈なのに割と悲しい。
お笑いも総合格闘技も2000年代、ほぼ同時期に、
男の子の「強さ」の証明だったわけです。
ですが、お笑いの批評は減ったとはいえ
まだまだ、MMAに比べれば
批評に近いものが探せばそれなりに出てくる。
だからといって、もはやMMA
批評として機能しないのかと問われれば
 見てくれや露出度で批判するお笑いおたくには格闘技を。
   カッコよくて女子高生に人気があっても
   面白かったら、笑えばいいじゃん。
 格闘技を暴力として批判するスポーツおたくにはお笑いを。
   ルールを守ってお行儀よくやって勝たれても、面白くない
   一発で吹っ飛ばす方が、面白いじゃん。
という次元の処方箋が、まだギリいけると思う。
だから今盛り上がってきている、
「暴力論」について、もう少し盛り上がって欲しい。


勝負論、興行論、観客論、
祝祭空間、コロッセオ見世物小屋
90〜00年代の男の子に、確実に何かを刻んだ格闘技が、
ゼロ年代のすべて」で取り上げられないジャンルなのは、
何が足りない為なのだろうか
 (まだ読んでないので出てくるかも知んないけど)。
おじちゃんくやしいよ。
お笑いの話で言えば、M-1の演出が、
格闘技の煽りVを参考にしている点なと、
批評的に興味深い点は様々あるのに。


格闘技批評が、狭い世界で乳繰り合ってるのは分かるけど。
何か、現状打破したいね。
格闘技の選手は全然クリエイティブですよ!
アンデウソン・シウバのボクシングテクニックや、
青木の関節は芸術的だし、
桜庭やミルコの生き様はとても批評的で、
影響力もまだ、そこそこあると思うのだけど。
少なくとも、毎年大晦日に地上波のいい時間をしめ、
ダウンタウンより視聴率をとり、
格闘家風と言えば、誰もが思い浮かべる対象がある程度に
メジャージャンルなのだが、
文化的に検証され、批評される対象として選ばれないのは
単純にもったいない。
分析力に定評のあるTKと、
稀代のニューエイジ須藤元気がいるのだから、
批評的な見方がもっと流通していてもよさそうなんだけど。
なんでか、スポーツマンばっかでツマラン。
それで金取れるほど成熟してないでしょう。


と言う、ツウィートをしていたら、
こんな格闘技批評本が出る事を教えてもらった。
『レッスル・カルチャー 格闘技からのメディア社会論』
取り敢えず、URLを貼ってますけど、
いつ出るのかとか、Amazonで買えるのかとかよく分かりません。
折角ですし、出たら読んでみたいと思います。
諸々の間違いとかはどーでもいいから
批評として突き抜けてくれたら、とても嬉しいです。


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