フェイク・ドキュメンタリーの現在・過去・未来


放送禁止
「事実を積み重ねる事が、必ずしも真実に結びつくとは限らない」という不穏なテロップから始まるTV番組を見たことがあるだろうか。お蔵入りになった、放送禁止テープを再編集したというこの番組。その人気はインターネットを始め、都市伝説のような広まりを見せ、その人気から今回DVDを発売する事になった。また、監督は初の映画にも挑戦をすることもあり。紹介がてら、掘り下げてみようと思います。

単純に「やらせ」と呼ばれるようなものから、古くはヤコペッティ食人族。変わった所で川口浩探検隊コリン・マッケンジーブレアウィッチ・プロジェクトといった、意識的に、現実と虚構をトランスさせる作品。こういった映像群をフェイク・ドキュメンタリーと呼び、『放送禁止』はそれら作品群の中にありながら、それら過去の、フェイク・ドキュメンタリー作品達への、批評性が垣間見える、最先端のフェイク・ドキュメンタリーであると言える。

この番組の企画・脚本・監督を手掛けたのは、TVディレクター長江俊和氏。92年にフジテレビの深夜のスペシャル番組『FIX』から始まった*1。ドキュメンタリー部分の出来はこの頃から、完成度が高かったが、物語の回収方法には、改善の余地があったと思われる。その後『FIX』のパターンを多角的に切り取った連続ドラマシリーズ『Dの遺伝子』を97年に開始する。こちらは、名の知れた役者が出ていることもあり、かなりドラマ寄りだった。この作品では、バブル経済の先に待ち受けていた、超常現象、鶴見済自己啓発、オウム、薬害エイズ押井守、ネズミ人間、さくらももこサリンもののけ姫援助交際原子力発電所ジャパニメーションライフスペース、リストラ、教科書問題、宮崎勤宮台真司、ミネラルウォーター、フェミニズムK-1酒鬼薔薇聖斗エヴァンゲリオン中流階級ゴーマニズム宣言完全自殺マニュアルなどの世界の輪郭を遊びつくしてしまった感がある。時はブレアウィッチ・プロジェクトが生まれる2年前である。そしてブレアウィッチ・プロジェクトの影響はその後のフェイク・ドキュメンタリ界にホラーをパッケージした。
その煽りもあり、03年突然ゲリラ的放送をした『放送禁止』の第一回目では、『Dの遺伝子』のように、科学や医学によって回収しない幽霊、超能力、UFOを盛り込んだ今見ると、『ほんとにあった!呪いのビデオ』のような作品でありつつ、後半のオチは完全にブレアウィッチ・プロジェクトを意識し、それに対するアンサーを行うラディカルな批評性を感じた。続く03年第二回目放送『ある呪われた大家族』でのバランスは、かなり完成形に近いと思われ、インターネットや業界でも評判になった。
以下、謎解き要素の強い第三回『ストーカー地獄編』をへて、初心に返ったかのような、人の恐怖心を煽る第四回『恐怖の隣人トラブル』までが現在放送済である。

ニュース映像のリアリティとは、現実を切り取って見せている部分。しかし、実際には現実を通してTVを見ている自分が切り取られているんだという事を、長江俊和氏は言いたいのかもしれない。しかし、あくまでもフェイクであり、ドラマである以上このバランス感覚は非常に貴重で。今回DVDを買うなり、借りるなりしてみる映像は、不意に深夜にやっていて、番組の冒頭を見逃したり既に始まっている、何か変な番組という恣意的なバイアスが掛からない。DVDは果たして発売してもいいのか?との葛藤もあっただろう。しかしそれでも、一度はこれらを見て欲しい気持ちもある。何らかの方法でフェイク・ドキュメンタリーの世界に触れてもらえたらと思います。
最後にフェイク・ドキュメンタリー界の、新しい旗手になるかもしれない、一部ではとても有名な映画監督を紹介します。『ブラッディサンディ』という映画を撮った、ポール=グリーングラス監督。もうそろそろ日本でも『ユナイテッド93』という911テロをモチーフにした映画が公開されるのでその作品世界を目にする事が容易になります。この映画は、アメリカ全メディア93%の賛辞という、異常な数字を叩き出したが実際劇場に来た人の70%が30代以上ばかりでデートムービーに適さないと、どれだけメディアがプッシュをしても、興行的に失敗してしまうという、身も蓋も無い現実を浮き彫りにしているのですが。それは横に置いて措いて、この監督がどのように映画を撮るのかというと例えば映画『ユナイテッド93』でこの監督は飛行機に客が搭乗してから、飛行機が墜落するまでの2時間を、きっちり2時間リアルタイムで撮っていて。これがどのような効果を生むかというと、本当に飛行機に乗っているかのような気分になるんです。出来うる限りの情報を使って、その時間、その場所、その出来事を再現するのですね。それと、舞台ではたまに見かける手法ですが、登場人物が物語に関係ある台詞をピックアップしてはくれずに、画面上の人間全てが、思い思いにストーリー上必要ない言葉*2を吐いているのですが、これが映画でやられると、また妙な気分なんです。まるで、偶然そこにおいてあったビデオを、後になって見ている、覗き見感覚みたいな。英語のヒアリングに自信がない人は、是非日本語字幕ではなく、吹き替えで見て欲しい。そんな感じで、ある種とてもピュアな方法でフェイク・ドキュメンタリーの世界に、新しい入射角度を齎している、グリーングラス監督をプッシュします。
放送禁止 REVIEW
第一話
http://d.hatena.ne.jp/atom_age/20030401
第二話『ある呪われた大家族』
http://d.hatena.ne.jp/atom_age/20030607
第三話『ストーカー地獄編』
http://d.hatena.ne.jp/atom_age/20040326
第四話『恐怖の隣人トラブル』
http://d.hatena.ne.jp/atom_age/20051013


http://www.youtube.com/results?search=housou%E3%80%80kinsi%E3%80%80&sort=video_date_uploaded

*1:フジ系列の人気ドキュメンタリー番組、NONFIXからNONを取り除いたタイトル。ドキュメンタリーではありません、と言う複線タイトルだと思われる

*2:厳密に言えば無意味と言う意味があるとして